校長室より

第100回入学式式辞 (令和4年4月8日)

  春の光はどこまでもまばゆく、生きとし生けるものすべてが躍動する新たな季節となりました。本日ここに、PTA会長様をご来賓に迎え、記念すべき第百回入学式を挙行できますことは、私たちにとりまして大きな喜びでございます。

 学校を代表して、心から厚く感謝申し上げますとともに、ご多忙の中をご列席いただきました保護者の皆様に、心から御礼申し上げます。ありがとうございます。

 ただ今、入学を許可いたしました三百十九名の新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。今、この瞬間から、皆さんは松高生と呼ばれます。

本校は、この百年の間ぶれることなく、建学の精神である「文武不岐」を貫いてきました。この言葉は、江戸時代の水戸藩の藩校、弘道館設立の際に、藩主であった徳川斉(なり)昭(あき)と儒学者、藤田東湖によって定められた『弘道館記』の中の一節をもととしています。弘道館で学ぶ藩士の心得として「文武不岐(文武岐(わか)れず)、学問事業 不殊其効(学問事業、其の効(こう)を殊(こと)にせず)」と続きます。     

もとより本校は儒教に基づく教育機関ではありませんが、百年の間大切に受け継がれてきた文化です。勉学と部活動の両方に全力で当たってください。たとえ勉強で思うように成績が上がらなくても、それを部活動のせいにはしないでください。中学校でよい成績でも、同じように白紙の状態でスタートした高校において、クラスの最下位となる人が出るのは当然です。これまで見たことのないような順位に愕然とするのは当然ですが、それを部活動のせいにするのではなく、次回に頑張るという力にしてほしいと思います。また、部活動で思うような成果が出さないことを勉強のせいにはしないでください。「文武不岐」とはそういうことです。

本校は、諸君を大きく成長させるために、大きな負荷をたくさんかけていきます。そう聞くと、なんて大変な学校に入ってしまったんだろうと思う人がいるかもしれません。そうです。諸君は大変な学校に入ってしまったんです。もう逃げられませんので、落ち込んだり、自信を失ったときには、思いっきりへこんでみてください。思い切ってめげるという経験をぜひ積んでほしいと思います。大丈夫です。我々教職員が、全力で支えます。また、何より諸君は一人ではありません。本校の校歌では「友よ共に」と歌います。これから三年間を一緒に過ごす仲間がいます。

本校には、松高生に対して、こうあって欲しいというあるべき姿、行動指針がいくつもありますが、本日は、私から三つだけお話しします。

一つ目、新たな松高生よ、強くあれ。

諸君には、将来、世界のどこかを支える人になって欲しいと思います。恵まれた資質を持ち、百年の伝統を持つ本校で学ぶ諸君には、その責務があります。そのために、強くなってください。新型コロナウイルス、ロシアによるウクライナ侵攻、環境問題、格差社会など解決すべき課題はいくらでもあります。地球規模の課題だけではありません。身の回りには、諸君の力を必要としていることが必ずあります。世界のどこを支えるのかを探し求めるとともに、ひたむきに頭と心と体を鍛え、強くなってください。

 二つ目、新たな松高生よ、優しくあれ。

人の痛みや悲しみを知り、周りの人をおもんぱかってください。これからできる級友や部活動の先輩、後輩だけではありません。本日一緒に参加してくれている保護者に対してもです。よく保護者の方から「うちは、男の子だから、学校のことや考えていることを何にも話してくれなくて」という声を聞きます。自分の子どもが体調が悪そうだとか、機嫌が悪そうだということを察することはできても、保護者は、超能力者ではありません。諸君から話さないと状況が分からないのは当然です。「親だから、わかってくれているはず」として、不機嫌なままでいるのは、子どもっぽい甘えです。怠慢です。ぜひ、保護者も含めて、周りの人にかける言葉をさがし、話をする力を身につけてください。

 三つ目、新たな松高生よ、格好良くあれ。

格好いい。まさに見た目の問題です。ひと昔前は「学校でも格好つけることはない。素のままの自分でいい」と言われました。が、そんなことはありません。学校は、家ではないのですから、精一杯、格好をつけて、輝く自分を見せてください。姿勢や所作、制服の着こなしもそうですが、挨拶、返事も格好良くしてください。たかが挨拶、されど挨拶です。また、返事一つの大切さに触れた言葉を紹介します。元埼玉県教育長の関根郁夫先生の言葉です。

 

 返事一つに心の明るさ暗さが表れます

 返事一つで意志の強さ弱さがわかります

 返事一つが人を温かくも冷たくもします

 気持ちが落ち込んだ時には

 空元気でもいいですから

 凛とした声で「はい」と返事をしてみましょう

 自分の「はい」の返事で元気が回復してきます

 人の心をつかむのは

 多くの言葉ではなく

 心のこもった返事一つです

 あなたの返事一つが家族を幸せにします

 たかが返事

 されど返事です

 あなたが身につけた凛とした返事は

 あなたの生涯にわたる大きな大きな財産です

 いつまでも返事一つを大切にしてください

 

もちろん、男子校ですので、異性の目を気にして変に強がったり、格好つけたりする必要はありません。大人になる直前の男として、自分を磨いてください。

 以上、新たに松高生となる諸君に三つのあるべき姿を贈ります。新たな松高生よ、強くあれ、優しくあれ、格好よくあれ。

 保護者の皆様にお祝いとお願いを申し上げます。

  本日のご子息のご入学、誠におめでとうございます。そして、今までの子育てのご苦労に対して、改めて敬意を表します。

 ご子息は、本日から歴史と伝統ある松山高等学校の生徒となりました。この三年間は、青春の多感な時期であり、楽しみの多い反面、何かと心を悩まされることも多いかと存じます。学校では、教職員一同、勉学や部活動等の指導に全力を尽くして参りたいと存じます。しかし、ご子息の成長のためには、ご家庭と学校の、連携と協力が何よりも大切です。皆様の温かいご支援とご協力を重ねてお願い申し上げます。

 結びに、新入生の皆さんが、本校で大きく成長されることを心から願い、式辞といたします。

       令和四年四月八日

      埼玉県立松山高等学校長  菅野 義彦